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知らないと大変なことに!?転職する際に知っておきたい「競業避止義務」とは

企業で働く従業員、あるいは過去に働いていた従業員は「競業避止義務」という義務を負うことになります。特に転職時は知らずしらずのうちに、これに反する行為を行ってしまって大変なことになるおそれがあるので、注意が必要です。

今回は、競業避止義務の意味や違反に該当するケース、違反をしないためのポイントについて、分かりやすくご説明します。

競業避止義務とは?

「競業避止義務」とは、自分の立場を利用して競合他社(ライバル会社)の利益につながるような行為をしてはいけないという義務です。具体的には、競合他社に転職する行為や副業として競合他社で働く行為、競合となり得る事業を自ら営む行為などが挙げられます。

従業員がライバル企業に就職したり競合となり得る事業を行ったりした場合、ノウハウや個人情報が漏えいする、他の従業員が引き抜かれる、顧客を奪われるなどの不利益を被る危険性があります。

そこで、多くの会社では「従業員は在職中及び退職後●カ月間、会社と競合する他社に就職及び競合する事業を営むことを禁止する。ただし、会社が従業員と個別に競業避止義務について契約を締結した場合には、当該契約によるものとする。」というような文言が就業規則や雇用契約書に盛り込んでいます。

競業避止義務の種類

会社を構成する従業員は大きく「社員」と「取締役」に分けられます。競業避止義務についても社員に課せられるものと取締役に課せられるものとでは違いがあります。

社員の競業避止義務

労働者と企業が結ぶ労働契約のルールについて定められた労働契約法では「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない」と記載されています。競業避止義務についても、履行しなければならない「義務」に含まれると解釈されます。

取締役の競業避止義務

取締役(役員)の競業避止義務については、会社法第356条「競合及び利益相反取引の制限」でルールが決められています。会社の取締役は、自身や第三者の利益を図るために株式会社と取引を行う場合は、株主総会においてその取引について重要な事実を開示し、承認を受けなければならないと定められています。

退社後も競業避止義務が発生する?

先ほどご紹介した例文にも「従業員は在職中及び退職後●カ月間」とあるように、在職中はもちろん、会社を辞めた後も一定期間は競業避止義務が発生するのが一般的です。辞めたからといって何をしてもいいわけではないので注意しましょう。

競業避止義務違反になるケースとは?

よくみられる競業避止義務違反に該当する具体的な行為として、以下の例が挙げられます。

・在職中や退職後の一定期間中に競合する会社に就職する行為
・独立して競合する事業を営む行為
・自社の営業秘密(ノウハウなど)をライバルに漏らす行為
・競合する会社に転職した後に前職場の人材を引き抜くといった行為

競業避止義務違反になるケースについて、詳しくみていきましょう。

【要チェック】競業避止義務契約の有効性を判断する6つの判断基準

日本国憲法では「職業選択の自由」が保証されており、上記のような行為を制限する競業避止義務は、それに相反する存在といえます。一方で、企業は自社の権利を守らなければいけません。

そこで、経済産業省ではガイドラインで競業避止義務が有効であるかを判断する基準として以下の6つの要件を挙げています。これらをすべて満たした場合に、競業避止義務が認められます。

1.守るべき企業の利益があるか

守るべき利益とは、その企業の情報やノウハウです。これらが競合へ流出するのを防ぐ目的で競業避止義務を定める必要があります。

2.従業員の地位

競業避止義務を課す場合、上記の守るべき利益を保有しているような従業員であるかどうかがポイントとなります。従業員だからといって誰もかれも競業避止義務を課すようなことは認められない可能性があります。

3.地域的な限定があるか

例えば、同一の市区町村内や都道府県など、商圏が重なる競合他社となる企業への転職など、地域的な限定がある場合にのみ競業避止義務が有効となります。なお、全国に事業所やチェーン店があるような大企業であれば、全国が対象になる場合もあります。

4.競業避止義務の存続期間

いつまでも競業避止義務を課してもいいというわけでもありません。例えば、退職後5年間、10年間というように、あまりにも長い期間を設定していると競業避止義務が無効とみなされる可能性があります。

5.禁止される競業行為の範囲について必要な制限があるか

禁止される競合行為は、あくまで「企業の利益を守る」という目的が果たせる最低限の範囲である必要があります。例えば、「競合他社でかつ同一の職種に転職をすることを禁止する」というように範囲を限定すれば利益が守られるはずなのに、一律に「競合他社への転職は禁止」としてしまうと競業避止義務が無効になる可能性があります。

6.代償措置が講じられているか

従業員に競業避止義務を課す以上、企業はそれ相応の報酬を支払う、手当を支給するなどの代償を払う必要があります。

競業避止義務を守らないとどうなる?注意点は?

ここからは競業避止義務を違反した際のペナルティや転職の際に注意すべきことについてご説明します。

競業避止義務違反をすると……

従業員が競業避止義務に違反した場合、「差止請求」「損害賠償請求」「退職金の制限」といった措置がとられるおそれがあります。

差止請求とは、ある者が違法な行為や不当な行為を行っている場合、あるいは行うおそれがある場合に、その行為を止めるよう請求することです。まずは文書や口頭などで競合行為を止めるよう請求を行い、それでも止めない場合は訴訟されるおそれがあります。

競合行為によって企業が損害を受ければ、損害賠償請求がなされることもあります。裁判になり、与えた損害を補てんしなければなりません。

また、背信行為(相手の信用・信頼を失わせる行為)があったとみなされれば、退職金が支給されなかったり、減らされてしまったりする場合もあります。競合行為も背信行為に該当する可能性が高いです。

転職者が注意すべきこと

まずは現在の会社に入社した際に結んだ雇用契約書や誓約書、就業規則の競業避止義務の項目を見直し、「どんな行為が競業避止義務違反に該当するのか」を確認しましょう。また、転職する際には同様に競業避止義務の項目についてしっかりと確認した上でサインをすることが大切です。

同じ商圏内にある競合他社に転職したり、同じ職種でライバル企業に転職したりすると、競業避止義務に抵触するおそれがあります。

また、転職先に前職の情報を漏らす、前職で得たノウハウや情報を使って利益を上げる、転職後に同僚や後輩に対して「うちに来ないか」と引き抜き行為を行うといったことも競業避止義務違反になるリスクが高いため、注意が必要です。

まとめ

競業避止義務違反は、前職の会社に大きな損害を与え得る行為であり、発覚すればさまざまな代償を支払うことになるかもしれません。

また、競合行為は職場に対する裏切り行為であり、人間性が疑われてしまいます。転職先でも、前職の情報をペラペラ喋ってしまうと、「この人はうちに対してもこんなことをするかもしれない」と思われ、信用を得られない可能性があります。円満に退職し、転職先でもトラブルなく仕事をするためにも、競業避止義務はしっかりと意識しましょう。

入社時や退職時には雇用契約書や誓約書、就業規則など、競業避止義務に関する書面をしっかりと確認し、それに該当するような行為を行わないことが大切です。